双対性と非ホロノミー2
いまの議論は二つから任意の数の粒子数に簡単に拡張することができる。フェルミオン系とボソン系の間の何らかのスペクトル同等性はある種の場の理論に現われることがある。なかでも上に見たような結合定数の強弱反転を伴ったフェルミオンとボソンの相互変換性は、量子場理論の世界で「双対性」としてとりわけ珍重され、現在でもいろいろな姿で素粒子論の最前線に登場しつづけている。
数年前の「ザイバーグ・ウィッテン模型」のセンセーションはまだ記憶に新しい。われわれの場合に興味深いのは、この高エネルギー物理に特有と思われたエキゾティックな現象たる完全な双対性が、実は簡単で素朴な非相対論的低エネルギー量子論で既に見られるということであろう。
「双対性」の最初の発見例としてよく知られているのは、コールマンによるボソニックな「ファイ4乗場模型」とフェルミオニックな「質量のある週主ウィンガー模型」の同等性の証明である。ここで論じられた量子力学レベルでの双対性は、いまのところそのおそらく最も簡単な発現なのではないかと考えられる。
低次元物性論ではフェルミオン多体系が強結合極限で自由ボソン系のように振舞うことは昔から「トモナガ・ラティンジャー液体」として知られていた。われわれの「点状相互作用モデル」はボソン化が厳密に成り立つ極限モデルという風に位置付けられよう。
さて今の双対性はフェルミオンとボソンという意義深いが些か抽象的な対称性であった。以下では点状相互作用する量子系に潜む、視覚的にもエキゾティックな現象を紹介しよう。これは系を特徴づけるパラメタをゆっくり変化させてパラメタ空間上で閉軌道を描いて元の値に戻したとき、ある固有状態が元とは違った状態に移行するというもので「非ホロノミー」と呼ばれる現象である。
この種の現象で量子力学において最初に発見されたのがかの有名な「ベリー位相」である。そこでは一つの状態が元とは違った位相を帯びて現われる。その後のベリー位相理論の拡張で、何かの対称性で縮退した状態の中の一つが別なものに移るというものが発見された。
ところがよく考えると、一般には量子系には複数の固有状態があるのだから、パラメタをある経路で元の値に戻したときある状態がエネルギーも異なる別の状態に断熱的移行してはいけないという先験的な理由はない。これから見るのはまさにそのような非常にエキゾティックな非ホロノミーである。
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