電子講義:量子グラフの理論序説

全卓樹

[電子講義集] [全HP]
[Index][ch0][ch1][ch2][ch3][ch4][ch5][ch6][ch7][ch8]
前へ 次へ

量子グラフ理論序説:量子特異点の物理(2-1)

グラフの量子論の設定1

直線がいくつも交差している「グラフ」を考えてみよう。一般にはいくらでも複雑に絡み合ったグラフを考えることができるであろうが、いまグラフを切り分けて基本要素に分解することを考える。直線が交差し接している点を節点と呼ぼう。あきらかにどんな複雑なグラフでも、各々が一つの接点だけを持つ基本要素に切り分けることができる。その基本的要素をみると、それは一般に一つの節点からN本の直線が出ている図形である。いまこのN 本に番号 i =1, 2 , ... , Nを振り、各々に座標 xi 、共通の節点を xi = 0 として割り当てることにする(図1)。

この図形の上に量子力学的粒子が一つ住まうとして、一体何がおこるかを考えてみる。各直線の上 x = xi で自由運動をするとすれば、粒子の運動は自由粒子ハミルトニアン

(2.1)

を用いて定常シュレディンガー方程式

(2.2)

で記述される。問題はこのとき節点xi = 0での記述が不明な点で、これはつまり節点xi = 0がハミルトニアン演算子の特異点として考えざるを得ないということである。つまり我々はハミルトニアンの指定できない点を持つ系というのが量子論として扱えるのか、といういささか深遠な問いにいきなり直面したわけである。

量子論の入門的教科書では、特に根拠もなく「波動関数は連続であるべき」というような主張が書いてあるのを見かけることがある。この言明の正当性についてはさておくとして、仮に波動関数がどの直線からみても連続としても、導関数の条件まで指定しないとそれだけではまだ十分な境界条件になっていない。それでは導関数も連続でなければならないのだろうか。このような問題を考えるには、やはり量子論の根本にもう一度帰る必要がありそうである。

行先: 研究のページ
copyright 2005
全卓樹ホーム 教育のページ
t.cheon & associates