電子講義:量子グラフの理論序説

全卓樹

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量子グラフ理論序説:量子特異点の物理(8-1)

まとめと展望

このようにして、「グラフ上の量子論」には古典的には自明なもの以外存在し得ない「点状相互作用」の一属が量子異常現象にともなって発生し、そこに潜む非自明な幾何学的構造物が興味深い現象がもたらす事が示された。また「特異な点」、「特異なポテンシャル」を扱うに際しては、通常自明の前提として出発する仮定を捨ててノイマンに立ち返り「量子状態は最小限どういう性質を満たすべきか」といった原理的問題に向き合う必要さえ生じたのである。

ここで特に、我々の系の研究の教育学的な価値について触れておきたいと思う。「初等量子論」と「場の量子論」の間のギャップは、量子物理を学んだものには誰でも思い出されるだろう。場の理論の数学的なテクニカルな難所を取り去っても量子力学の位相的な側面を学ぶ事が出来るとすれば、そのような習得上のギャップを埋める役に立つ事は間違いないだろう。

非自明なパラメタ空間における移動というものを実験的に実現できれば系を一見奇妙な方法でコントロールする道が拓けてくる。微視的物理学にあって現在我々が目撃しているのは、「存在する微視的対象の記述」であった前世紀の量子力学が、「興味深い現象をもつ対象物を設計する」新世紀の量子力学へと脱皮してゆく過程だと考えることができるかも知れない。

最後に、本ページの内容をさらに詳しく調べたく思った読者のための文献紹介を行っておこう。


一般向け解説
[1] 全卓樹, 別冊・数理科学「量子カオスの物理と数理」, 2000年4月, pp140-150.
[2] 筒井泉, 数理科学, 2001年7月, pp12-19.

原著論文
T. Cheon and T. Shigehara, Phys. Rev. Lett. 82 (1999) 2539-2542.
T. Fulop and I. Tsutsui, Phys. Lett. A264 (2000) 366-374.
T. Cheon, T. Fulop and I. Tsutsui, Ann. of Phys. 294 (2001) 1-23.
I. Tsutsui, T. Fulop and T. Cheon, J. Math. Phys.42 (2001) 5687-5697.
P. Hejcik and T. Cheon, arXiv.org, quant-ph/0512239 (2005).

ウェブサイト
http://www.mech.kochi-tech.ac.jp/cheon/  ここですよ!
http://research.kek.jp/people/itsutsui/  これはKEKの筒井泉先生
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