電子講義:量子グラフの理論序説

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量子グラフ理論序説:量子特異点の物理(2-3)

グラフの量子論の設定3

この問題を一般の N 場合に解析するのは困難で、いまのところ特殊なサブグループについてしか詳細はわかっていない。N=1 はただの線分の端点を与えるだけでつまらなく思えるので、ここではそれについで簡単なN = 2 の場合について少し詳しく見ていこう。視点を少し変えてみると、N = 2の問題は直線がx = 0 にある特異点で正負の二領域 x1 = x (x > 0) と x2 = x ( x < 0 ) とに分断されているとも考えられる(図2)。つまりこれは直線上で量子的に可能な一次元の点状相互作用を調べる問題と同等である。この場合新しい統合座標 x で書き直すと、特異点直近の左右の点x = 0-, 0+での境界値ヴェクトルは

(2.7)

となる。二次元ユニタリ行列をU は4つの独立なパラメタで指定できるが、ここでは1つの拘束条件をもつ5つのパラメタただし を用いて具体的な表式

(2.8)

を書いておくと分かりやすいだろう。このU で指定される点状相互作用を持つハミルトニアンを HU と書く事にする。この結果は、量子学的に可能な点状相互作用全体が四次元超球面をなすパラメタ空間で指定される属をなしているということを示している。

ここまで来ると、通常の課程で量子論を習得された読者は「あれ?」と疑問をいだかれることだろう。「昔教科書でデルタ関数ポテンシャルというのがでてきたが、ほかの種類の点状の相互作用というのがあったという話は無かったような気がする。」

その秘密は前にも出てきた「特異点のもとで許される量子力学」をどう考えたかによるのである。はじめに触れたように量子論入門の教科書では「波動関数は連続であるべきだろうから」といった理由でのデルタ関数の境界条件の導入される。「自然は跳躍しない」などという尤もらしい理屈が書いてある場合もある。しかし量子論の基本的要請にそのようなものは存在しない。あくまでも「確率保存」すなわち「流速が連続」という条件があるだけなのである。

N = 2 の次に簡単な N = 3 の「Yジャンクション」、また N = 4 の「Xジャンクション」と言ったものは、今後発展が望まれる量子回路で中心的役割を期待されるが、いまのところまだきちんとした特徴付けがなされていない。我々も以下では主に N = 2 の場合を中心に考えている。この点の改善が早晩望まれる。

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