電子講義:量子グラフの理論序説

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量子グラフ理論序説:量子特異点の物理(7-2)

スケール不変性とマクロスケール可解量子カオス2

あらゆるスケールにおいて確率的に反射透過がおこるという性質は、この相互作用に一種のストカスティックな性質を与える。その帰結の一つが図5に示されている。これはスケール不変な点状相互作用がN個 x = s1, x = s2, ノ, x = sN に並べられた系おける透過確率 を、入射粒子の運動量の関数としてプロットしたものである。ここで si はすべて互いに無理数比になるように選んである。これをみるとこの系はNが少し増えるだけで典型的な「量子的不規則散乱」の様相を呈している。スケール不変点状相互作用の不可思議な魔術により、古典的には可積分と考えるしかない一次元保存系で量子カオス特有とされた現象が見られるのである。この場合面白いのは、個々の点からの散乱の表式の簡単さのために 自体がきわめて簡単な形に求まることで、N = 2, 3, 4, 5の例を書き出すと、
(7.4)
となり、この形の一般のNへの拡張の推測は容易であろう。この表式を用いて透過率を運動量の関数として示したのが下の図である。これからはっきりするのは量子カオス的散乱というものの実体が多重周期関数に他ならず、(古典)カオス散乱の周期数無限個とはまったく質的に異なる事実である。
量子カオスといえば、議論に必ず出てくるものにレベル統計がある。今の散乱系の無限の直線を長さLの有限の直線で置き換えれば、連続スペクトルの代わりに離散的スペクトルを得ることができる。簡単のためにx=0とx=Lを同一視してその上での波動関数に周期的境界条件を課してみよう。すなわちこれは長さLのリング上の量子状態を求めることに他ならない。


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