電子講義:量子グラフの理論序説

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量子グラフ理論序説:量子特異点の物理(4-2)

二つの例2

一般の (θ+, θ-) ではデルタとエプシロンが同時にあってそれぞれ対称、反対称な波動関数に別々に作用していると考えれば十分なのであるが、このようなパリティ不変な属全体を見渡すには図4を見るのが良い。これは P1 不変なトーラスを切開したもので、グラフの下端と上端、また左端と右端はトーラスの同じ位置であって同じ相互作用をあらわす。図上のθ- = π の実線はデルタ相互作用、θ+ = 0 の点線はエプシロン相互作用をあらわしている。

系の対称な状態は全て θ+ のみで決まるので、θ- を変化させても影響を受けず、また逆に反対称な状態は θ-のみで決まるので、 θ+ を変化させても影響がない。つまりこの図の上の任意の点であらわされるパリティ不変な点状相互作用は、系の対称状態に対してはそれを縦に平行移動して重ねたデルタ相互作用と同じ効果を持ち、反対称状態に対しての働きは横に移動して重ねたエプシロン相互作用とおなじである、ということになる。


図4: パリティ不変なトーラスの切開図

いまこの図の上で変換 P: を考えてみる。この変換を「双対変換」と呼びこれによって結び付けられる対角線 θ+ = θ- に対して鏡映対称な2つの点を「双対」であると呼ぶ[7]。これはP = P2 (あるいは P = P3 )で実現できることはすぐ判る。前述した通りこの変換は系のスペクトルを全体として不変に保つが、ここではそれが対称な状態と反対称な状態をそっくり入れ替えることによって行われている。結局この図を対角線 θ+ = θ- で割った上半分の三角形と下半分の三角形はスペクトル的に等価で、逆にいえばスペクトル的に異なった点状相互作用はどちらか一方の三角形の領域で指定される「トーラスの半分」で尽きていることになる。ここで注目に値するのは対角線θ+ = θ- 上の点に対応する相互作用の性質である。ここでは

(4.6)

となり、系は「自己双対」であって双対変換によって自分自身に移る。すると変換 P2 によって全ての対称状態と反対称状態を入れ替えて系全体のスペクトルが不変であるはずである。すなわちこの場合、対称状態と反対称状態のスペクトルが全く同じで、結果としてスペクトル全体が2重に縮退しているということになる。

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