電子講義:量子グラフの理論序説

全卓樹

[電子講義集] [全HP]
[Index][ch0][ch1][ch2][ch3][ch4][ch5][ch6][ch7][ch8]
前へ 次へ

量子グラフ理論序説:量子特異点の物理(3-3)

パラメタ空間の幾何学3

いまトーラス上のパラメタ (θ+, θ-) を固定すると、パラメタ (μ, ν) を変えて別の系に移ってもスペクトルは不変なので (μ, ν) の作る球面は「等スペクトル球面」である。今度は球面パラメタ (μ, ν) を定めVを固定して、新しいスピン演算子

(3.7)

を定義すると、(θ+, θ-) を変えてできる全ての U は次の関係

(3.8)

を満たすからU は変換 によって自分自身に移る。つまり等スペクトル球面の一点を定められた点状相互作用全体は「 不変なトーラス」を形成するということになる。

こうして点状相互作用を記述する4つのパラメタのうちで「スペクトルを決定する」2個が分離されて、さらにその大局的構造がトーラスであることがわかり、また、のこりの「スペクトルを不変に保ちながら不連続性の様子を変える」2個が、大局的には球面状の構造をしていることが判明したのである。

こうして意外な場所で、平坦な平面でない「非自明な面」が登場することになった訳であるが、これには必然的に帰結が伴う。ベリー位相という話を思い返していただきたい。例えば3次元的に方向を変えられる磁場の中のスピン1/2の粒子の状態である。磁場の方向を示す2つのパラメーターが2次元球面状であったことが、ベリー位相の出現の背景になっていたことを思い出すであろう。

思い返すと我々の系でも、そのような2次元球面のなすパラメタ空間が、今しがた出てきたばかりであった。そしてここでも実際にベルー位相が存在する事が直接の計算で容易に示すことができる。

球面上に量子状態が定義され隣り合う状態が連続的に変化するとすると、球面全体でつじつまが合うような案配にするには、いくつか可能な方法がある。いまパラメタを断熱的に変化させて球面のある点からある経路をたどって元に戻ることを考える。まず考えられる最も自然なのは状態はそっくりそのままもとの状態に戻るという自明なばあいである。ところがほかにも可能な案配があって、それはたどった経路が球面の中心に対して描く立体角分の整数倍だけ位相を帯びて戻ってくるという状況なのである。このときの整数倍を与える整数を「モノポール数」とよんで、これをあたかも球の中心にその個数分のモノポールが鎮座してそのような位相差を引き起こすのだと見なすことにするのである。

行先: 研究のページ
copyright 2005
全卓樹ホーム 教育のページ
t.cheon & associates